ドイツはベルリン郊外に、非常に小さく稀有な森がある。周囲を牧草地帯や人工林に囲われたブナの原生林・古代林とされる森だ。産業革命以降ヨーロッパ大陸から忽然と姿を消した古の森とその記憶は、散らばる点のように僅かに残存するのみだ。だがそれは、完全な原生の姿と言うより、保護地区として緩やかな人手の介入によって延命措置を施された半人工の森と呼ぶべきかもしれない。2023年のドイツでの滞在制作では、この森に幾度も足を運ぶことになった。

 

そこにある、失われゆく森の姿と保持を試みた不完全な景色。複雑で曖昧な原生と人工の境界線から覗く、人間の不穏と矛盾。気配という密かな温もり。それらを求め、秋から冬へと移ろう森をベルリンのアパートと往復しながら。